お金の話⑤~相続の話Ⅲ~

 今まで「遺言」がなかったために大変になったケースなどを紹介してきました。

 今回は「遺言」はなかたったけど「生前の本人の意志」があったのに数年後にもめたケースです。

 独身のAさんは55歳で大腸ガンを患ってしまいました。
 兄弟姉妹が5人いるので、一番上のお姉さんが入院の手続きから一切を任されていました。

 ガンになった場合、ガン保険に入っていると入院保険とは別に給付金を受取り治療費に充てることが出来ます。
 Aさんは独身だったのでそういう「生前に受取れる」保険にもしっかりと加入されていました。

 Aさんは私の前でも、他の兄弟の前でも「俺は独身で嫁さんがいないので全部一番上の姉ちゃんに任せる」と言っていました。
 
 数度の入院の手続き、自宅から抗癌剤治療に通う費用の工面・計算、全部お姉さんがやっていました。
 そのお金をキチンと集計し、自分が使うなんてことは全くなく、私がみていても本当に頭が下がるほどでした。

 周囲の看護などの甲斐もなくAさんは他界されてしまいました。

 葬儀のお金も残したお金からもちろん支払いました。
 お墓もたてました。
 小さい仏壇をほしいという兄弟の分を残したお金からも買いました。

 お墓参りにみんなで行く時もAさんの残したお金からガソリン代やお花代なども出しました。
 それぞれ家庭を持っているので、自腹で払うのは大変だろうとお姉さんが配慮していたのです。

 一回忌も三回忌も私も参加させて頂き、本当に仲の良い兄弟なんだな~といつもうらやましく思っていました。

 でも、七回忌を目前にした頃に、兄弟の1人が「ところで、姉ちゃんはいったいいくら保険金とかもらったんだ?」と言い出しました。
 相続の段階で全員納得して相続放棄の署名・捺印もしていたのに、こんなに時間がたってからです。
 そして、1人が言い出すとほぼ全員同じようなことを言い出したのだそうです。

 お姉さんは機会があるごとに帳簿を見せて残金などは公開していたのにです。

 要はもっともらってる、隠しているお金があるんじゃないかってことでした。

 あんまりですよね。

 その時点で残っていたお金は300万あるかどうか。
 でも、お姉さんは60を過ぎています。
 今度はいつ自分がって思います。
 そうなった時はお姉さんの子供があとを引き継がないとなりません。
 300万あっても毎月のお墓参り、お墓の修繕、色々考えたらずーっと見るには足りないかもしれません。
 お姉さんは、みんながちゃんとお墓参りもして、お墓の管理も出来るなら300万を分けてもいいと言いました。
 でも責任をとらされるのは嫌だからなのか、それは全員嫌なのです。
 でもお金はほしい。

 悲しいことに、お姉さんは兄弟全員との行き来が今はなくなってしまいました。

 紛争に発展したわけではありませんが、生前からAさんが「お姉さんに任せる」と言っていたにもかかわらず、何年もたってから文句を言い出す人もいるのです。
 お金がどうこうではなく「悔しい」とお姉さんは言いました。
 そばでずっとみてきた私も同じ気持ちで悔しくて泣きました。
 私がちゃんと説明しようかと思ったぐらいです。

 そして、どんなに言葉で伝えても「書面」がなければうるさい外野の口を黙らせることは出来ないのだと思いました。

 お姉さんは、2人の娘が自分がいなくなったあとにケンカをしないように遺言を書いたと言っていました。

 もめごとにならないように、想いを遺言に残すことはやっぱり「愛情」の一つなのだと思います。

 私はよくAさんに飲みに連れていってもらっていたので、今の状態を天国から悲しそうにみているだろうなと思うと心が苦しくなるのでした。

 
 
by best-bplace | 2010-10-02 20:30